N-Wave VOL.116
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4 会長インタビュー 46ないと楮の繊維が沈殿し、紙を漉こうと思っても、上澄みだけを漉くので紙にならないのです。このトロロアオイは要件の一つですが、雑菌に弱く、夏場に非常に弱いのです。昔は紙漉きは夏場はできなかったのです。たとえ無理やり混ぜて漉いても、簀す桁けたの上で水が流れずにすくった瞬間にバシャッと落ちてしまう。流すことによって表面をきれいにならしていって、均等な美しい紙にする。それができないと、やっぱり悪い紙になります。日野 原料は楮だけで三みつ俣またや雁がん皮ぴなどが混じると本美濃紙とは言わないわけですね。清山 楮は三俣や雁皮に比べ繊維が一番太いのです。繊維が太いと、繊維と繊維が絡んだときに、空間も大きくなる、空間が大きいと光に透かしたときに光がよく通る。障子に適しているわけです。日野 空隙が大きくなるということですか。清山 そうです。空隙が大きくなると光や空気をよく通します。いい紙というのは日本の湿気の多い風土に合ったもので、障子の空間を例えば玄関に使うと空気の入れ替えもできるわけです。逆に空隙があり過ぎると書をかくには墨が突き抜けて適さない。用途によっても原料は変わってきます。日野 なるほど。同じ楮、同じ水で漉かれた本美濃紙でも技術によって品質に違いがあるのでしょうか。清山 あるみたいです。分かる人には分かるようで、美濃の最高齢の現役の紙漉き職人澤村正さんの漉いた紙の違いを見抜かれる方が私の知る限り2人おられます。1人は前の文化庁の伝統工芸の主任調査官で、何人もの人が漉いた紙の展示会で、どれを見ても立ち止まらなかったのに、澤村さんの紙の前に来た時に立ち止まって、「これは自信作だね」と言われました。僕らはそこまで分からないです。もうひと方は、京都の文化財修復の方で、京都の国立博物館の中に文化財修復所というのがあります。国宝とかを修復する文化財修復の装そう潢こう師し〈※6〉さんが、やっぱり澤村正さんの紙が「一段抜けています」と言われ ます。日野 分かるんだねえ。清山 何が違うんですかって聞くと、澤村さんの紙には「品がある」って言うんです。日野 すごいですね。実は今日この後90歳を越えられた最高齢の現役紙漉き職人の方がおられると聞きまして、ぜひお話をお聞きしたいと思いお訪ねする約束をしているのです。清山 澤村さんはここにもよく来られますし、本美濃紙保存会の会長を昨年の5月までしておられ、今は名誉会長です。いろんな話が聞けると思います。ぜひ行ってください。ユネスコ文化遺産登録日野 そうですね。お会いするのが楽しみです。その前に館長にもう一つ伺いたいのですが、平成26年の11月にユネスコの「世界無形文化遺産」に日本の手漉き和紙の技術が登録され、構成する文化遺産は楮のみを原料に用いる本ほん美み濃の紙し・石せきしゅうばんし州半紙・細ほそ川かわ紙しだそうですが、登録までにはご苦労があったと思いますが、少しお話いただけますか。清山 ユネスコ登録のときに一番注意したのは、良し悪しではないというところ。ベターとかベストは禁句で、手漉き和紙は各地に伝わっており、それぞれが違う。多様性を受け入れて、その中で何ができるかというところでした。日本にとって、この和紙が大事なのはわかったけども、この和紙を指定すること、登録することで、世界にとって何か良いことあるんですかという。国連にとって何か良いことあるのかという、そこを言わないと何のために指定するんですかということになる。そして、出した答えというのが、私たちの活動でした。ひとつは後継者の育成、この文化を次世代に伝える活動、また美濃市が昔から和紙の町であり、地元コミュニティと和紙の文化が非常に密接になっていること。現在も美濃和紙あかりアート展、全国和紙画展などの紙に関するイベントもたくさん行われており、コミュニティとの関わりがうまくいってる。こういったものが世界各地に対話を通して良い影響を与えることが期待できるということで、登録されま▲ 美濃和紙の里会館 館長 清山 健さん(写真右)  美濃市教育委員会を経て、平成28年に美濃和紙の里会館館長に就任。美濃和紙の伝統と文化を伝えられています。▲ 会館内にある長良川の支流 板取川で、楮をさらしていたことが分かる、当時の様子を再現したジオラマも展示されている。

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